家庭円満の秘訣はバイクという共通の趣味……にとどまらず、ふたりでドゥカティを愛しているご夫婦がいる。
そんな話を聞きつけて、Multistrada V4 SとMonster SPを所有するふたりにお話を聞いた。
「ガレージでバイクを洗っている夫をふと見てみると、ニヤニヤしてバイクを見てるんです。手は止まっていて、洗車がぜんぜん進んでなくて」
そう話す妻の横で、そんなことないよと笑う夫。そのちょっとしたやりとりだけで、夫婦仲の良さが伝わってくる。そんな仲睦まじい佐々木朋春さん、めぐさんご夫妻はともにバイク乗りであるとともに、朋春さんはMultistrada V4 S、めぐさんはMonster SPを駆るドゥカティオーナーでもある。東京都内にあるご自宅のガレージには、その2台に加え、同じイタリアブランドのスクーターやコンパクトハッチが鎮座。都内の住宅街にあって、ここだけはさながらイタリアの街角のようだ。
「高校時代に原付の免許を取り、まわりの友人はスクーターが多かったんですけど、僕はギア付きのバイクに乗りたかったこともあって50ccのオフ車に乗っていました。そのあと125ccのオフ車に乗ったりしたのち、中型二輪免許を取ったんですけど、心に響くバイクがなかったんです。それならばと大型二輪免許も取って、旧車の国産ネイキッドを買ったところ、バイク沼にハマってしまいまして……。でもそのバイク、程度が良くなかった。オイル漏れはするわ、故障はするわでしたが、それでも夜な夜な第三京浜に通ってましたね」(朋春さん)
現在50歳という朋春さんがバイクに乗るようになった80年代は、空前のバイクブームの真っ只中。2ストのレプリカモデルが峠を走り回っていた時代ではあったが、朋春さんはレプリカには興味がなく、ずっとネイキッドやツアラー系のバイクが好きだったという。その後、現在の妻であるめぐさんと出会い、結婚。当時はバイクに興味がなく、当然二輪免許も持っていなかっためぐさんだが、朋春さんの誘いでバイクの後ろに乗って出かけることはあったという。そんな佐々木家に転機が訪れたのは、めぐさんが30歳を迎えるころだった。
「ある日、妻がバイクに乗りたいって言い出したんです。自転車にも乗れない、根っからのインドア派なのに。泳げないのにスキューバダイビングやりたいって言い出すようなものだと思いました」(朋春さん)
「30歳になるにあたり、敢えて苦手なことにチャレンジしてみようって思ったんです。身体を動かすことが苦手だったので、そんな私がバイクに乗ってたらカッコよくない? と夫に聞いたら、いいじゃん、やってみれば? って。それで免許を取る決心をしました」(めぐさん)
実は、めぐさんの発言を真に受けておらず、軽い気持ちで返事したという朋春さん。教習所への入校前に、引き起こしや取り回しのテストがあるだろうから、行ったとしても落ちるだろうと思っていたそうだ。しかし、運動が苦手とはいえ、背が高いめぐさんはその身長を活かして難関をなんとかパスし、晴れて入校。結果的に一人前のライダーとなれたのだった。
図らずも夫婦でライダーとなった佐々木家とドゥカティの出会いはここから始まる。当時の朋春さんの愛車と同じ国産メーカーのバイクを買うべくディーラーに向かったふたりだが、めぐさんが店の向かいのドゥカティディーラーに“黄色いカッコいいバイク”が止まっているのを発見。気になるので見ておきたいということでドゥカティを訪れためぐさんは、その黄色いバイク=Monster 400に一目惚れ。またしても長身に助けられ、足つきも問題なし。こっちがいいと購入を決めた。
「免許を取ってからドゥカティばかり乗り継ぎ今年で20年が経ちました。スクランブラーのCafe Racerに乗っていた昨年、そろそろバイクから降りようかなと思い始めていました。相談すると夫が“妻もバイク乗りなんですよって言いたいんだよ”なんて嬉しそうな顔で言うので、最後にもう一度モンスターに乗ろうと決めたのです。結果、その選択は正解でした。」(めぐさん)
歴代モデルを乗り継いできたオーナーの言葉にはやはり説得力がある。一方の朋春さんとムルティストラーダとの出会いはどのようなものだったのだろう。
「ドゥカティ歴は妻のほうが長く、彼女がMonster 400に乗り始めたときに、ドゥカティにしたら? と言われたのがきっかけですね。それまで私はムルティにもドゥカティにも興味はなかったのですが、妻の誘いでドゥカティオーナーの集まりに顔を出したんです。そこで当時現行だった初代ムルティが気になり、オーナーさんに声をかけたらたまたまその集いの主催者の方で。見た目と違ってすごくスポーティなんですよなんて聞いて、興味を持ったんです。初代ってピエール・テルブランチのデザインで虫っぽいですよね。あれ、最初に見たときは変だなぁって思ったんですけど、でも、私はバイクもクルマも最初に変なやつ、って思ったものを好きになっちゃう。逆に最初にカッコいいと思ったものはあとで飽きちゃう。その例に漏れず、ムルティがすごく気になってきて、いつのまにか契約書にサインしてたという」(朋春さん)
「価格や性能で選ぶなら、ほかのメーカーでもいいかもしれません。でも、やっぱりドゥカティの色気に負けちゃうんです。あまり乗り気じゃないときでも、またがってエンジンをかけた瞬間、もう行く気になってる。気持ちのスイッチも入るんです」(めぐさん)
「バイクは究極の非日常だから、尖ったところが欲しいんです。乗りやすいとか壊れないとかではなく、デザインがいいとか、エンジンをかけたときの高揚感があるもののほうがいい。スクランブラーのDesert Sledに乗ってた時期もあるのですが、逆にムルティが恋しくなりました。気軽でファッショナブルないいバイクだったんですけど、私がバイクに求めてるものとは違ったんです。本当は両方所有できると楽しいんでしょうけど、妻のおかげでモンスターには乗れるし、それで満足しています」(朋春さん)
ムルティストラーダV4 SとモンスターSPという、まったくもって性格が異なるドゥカティのマシンを所有する佐々木家。その2台のおかげで、状況やその日の気分に合わせた自由なバイクライフを楽しめているという。
「ツーリングに行くつもりだった朝に、やっぱり運転するには気が乗らないな、というときでも、“それならタンデムで行こう”と言って連れて行ってくれるので感謝しています。それもあって、ここまでバイクに乗り続けてこれたのかもしれません」(めぐさん)
「私は美味しいものをふたりで共有したいので、それを理由に妻を引っ張り出してるだけなんです」(朋春さん)
「車種によるオーナーさんの特徴ってあると思うんです。ムルティに乗ってる人たちは、あとで写真を撮る予定なのかなっていうくらいバイクをきれいに止める。でも、モンスターのオーナー同士でツーリングに行くと、みんな好き勝手止めるんです。同じドゥカティオーナーでもこんなに違うんだって」(めぐさん)
「ムルティって、アクティブだけど落ち着いたオーナーさんが多いと感じます。ムルティ繋がりで知り合った方とは仲良くなれることが多いうえ、繋がりが深くて、初代ムルティに乗っていた時期に繋がった人たちとも未だに交流があります。いまは違うバイクに乗ってる人もいるし、バイクを降りちゃった人もいるんですけど、それでも繋がっていられるのはうれしいことです。」(朋春さん)
「ドゥカティのディーラーの方は、アメリカやその後に赴任したメキシコにいるときにもカタログやメールを送ってくれたりしてました。帰国したらすぐ来てください。用意してますから、とまで言ってもらえたので、本当に帰国してすぐお邪魔したんです」(めぐさん)
「バイクの好みや接し方って、ライフスタイルに合わせて変わっていくものですよね。ムルティストラーダは、“4 Bikes in 1”というコンセプトなだけあって、特化しない贅沢さがあり、いろんな楽しみ方ができます。私にとってムルティには4つの魅力があって、まずはその美しさがいい。所有欲を満たしてくれるんです。ガレージに置いてあるだけで満足感があるし、パーツひとつひとつの作りもキレイで、写真を撮るにしても、どこを撮っても絵になります。ふたつめは長距離のツーリングに最適なことです。グリップヒーターどころか、シートヒーターまで付いてますからね。バイクの快適性もここまで来たかとびっくりしました。現行モデルにはACCも付きましたし、ブラインドスポット検知機能などの安全装備も充実しているので、安全に快適に遠くまで行ける。今年初めてSSTRに出たんですが、こんなもんかと思うくらい、あっけなく終わっちゃいましたから。友人に話したら、バイクがムルティだからだ、それで余裕なんて言うなと言われましたけど。3つめは高い運動性。スポーティな走りもできるので、ツーリング中に峠に入っても臆することなく走れてストレスを感じません。そして最後の魅力が、洗練されたオーナーさんが多いこと。これら多くの魅力が相まって非常に懐の深いバイクだと思っているので、実は歴代のムルティストラーダ4世代のうち、3世代のモデルを乗り継いでいるんです。見た目ではわからないですが現行モデルは足つきもよいですし車重も抑えられているので、気になっている方にはぜひ試してもらいたいですね。」(朋春さん)
「夫はちょっと前傾姿勢で乗るようなバイクにも乗りたいって言ってたこともあるんです。私がMonster SPを買いたいと言うとすごく背中を押してきたので、きっと自分が乗りたかったんだと思います。ムルティでは前傾姿勢にはならないですからね」(めぐさん)
「何でもできるムルティがあるとはいえ、ちょっとタイプが違うのもあると楽しいですよね。バイクに関しては、我が家には止めてくれる人がいないので、財政の管理をちゃんとやらないと、乗り換えるの? いいじゃん! って助長し合っちゃう」(朋春さん)
仲睦まじき佐々木家のバイクライフは、ムルティストラーダを軸にこれからも続きそうだ。